【保存版】親族の軍歴や足取りを調べる方法

「太平洋戦争で戦死したおじいさんについて知りたい」

「叔父が戦争に行っていたらしいけれど、話を聞く前に亡くなってしまった」

「遺品の整理をしていたら戦地からの手紙が出てきた」

きっかけは様々ですが、先の大戦へ従軍された方のご親族が軍歴を調べているというお話をよく耳にします。
それは何故か?終戦から70年以上が経過し、ご本人はもちろん、当時を知る方々がほぼいなくなってしまったからです。
しかし、いざ調べようとしても、終戦時における日本軍の総兵力は334万5100人(厚労省援護局調べ、1945年8月15日時点の兵数)。
この膨大な人数の中から特定の個人を調べることがいかに難しいかは想像に難くありません。

そこで、ご遺族の方々が少しでも情報を得られるよう、本ページでは実際に戦死したご先祖様を調べた筆者が軍歴のたどり方をご紹介したいと思います。

 




1. 軍歴証明書を取得しよう

  • 軍歴証明書とは?
    軍歴証明書とは、厚生労働省や都道府県が発行する、主に満州事変以後に従軍した旧陸海軍軍人・軍属・従軍文官の召集から除隊までの履歴を記録した文書です。
    旧軍人の恩給や各種共済組合の退職年金の手続きの際などに、軍歴を照会する必要があるため、このような証明書が発行されています。
    これであれば、特定の個人についてでも、信憑性のある情報が入手できる可能性が高いですよね。

 

  • 何が書かれているの?
    氏名、官職、叙位叙勲等、招集時期、出航した港、配属、任官、進級、従軍記録、賞罰、傷病と治癒に関する記録、招集解除時期など。
    詳細な記録なので、これだけでも大きな情報源になりそうです。

 

  • 何処に開示請求するの?
    陸軍軍人、軍属・・・終戦時に本籍のあった都道府県の担当部署(社会福祉担当部署など)
    陸軍文官・・・厚生労働省(社会・援護局 援護・業務課)
    海軍・・・厚生労働省(社会・援護局 援護・業務課)
    ※何処に所属していたかわからない場合の調べ方は、別途説明します。
  ■厚生労働省による各都道府県の窓口案内
  各都道府県担当部署を検索し、問い合わせてください。

  ■厚生労働省・旧陸海軍から引き継がれた資料の写し等の請求について 
  厚生労働省へ開示請求をする際はこちらをご参照ください。

 

  • 誰が申請できるの?
    主に、本人または3親等以内の親族。
    ただし、都道府県または事情によって、2親等までの親族に限る場合や、4〜6親等までの親族が申請できる場合もあるため、問い合わせてみるのが確実です。
    戦後70年が過ぎ、調査対象者がひいおじいさんのお兄さん(4親等)などというケースが増えています。3親等以内でないからと言って諦めるのはまだ早い!

 

  • 申請に必要な書類は?
    各発行元によって若干の違いがありますが、基本的には以下の書類が必要です。
    ① 申請書・・・厚生労働省または各都道府県の担当部署に問い合わせて取得します(それぞれ形式が異なります)。Webサイトからダウンロードできる場合も多いです。
    ② 戸籍謄本の原本・・・対象者と申請者の関係を証明できるものを用意します。ただし、申請希望者ではなく、その親などの親族本人からの申請を求められることがあるため、申請前に「誰が申請できるか」「誰の戸籍謄本が必要か」を確認しておきます。
    ③ 申請者の身分証明書・・・顔写真付きのものが一般的ですが、ない場合は担当部署に確認しましょう。
    住民票やその他の書類の提出を求められることもあるので、ご注意ください。

 

  • 申請時に必要な情報は?
    ① 調査対象者の氏名・生年月日・・・戸籍謄本で確認できます。
    ② 終戦時の本籍地・・・戸籍謄本で確認できます。
    ③ 所属先(例:陸軍・第○○師団・○○隊)・・・最低限、陸軍か海軍かまではご自身で調べていただく必要があります。

 

  • 問い合わせた際に軍歴証明書ではなく「兵籍簿」と言われたけれど?
    兵籍簿(へいせきぼ)は当時、手書きで記録された書類です。詳細が記載されており、これを元に履歴書のようにまとめたものが軍歴証明書です。
    自治体によっては軍歴証明書が作成されておらず、兵籍簿そのものを軍歴証明書として発行しています。兵籍簿は手書きで細かな文字が記入されているため、読みにくいですが、軍歴証明書より詳しい記録が得られることも多いです。
    また、軍歴証明書が作成されている場合、基本的に兵籍簿は開示されません。

 

  • 実際に開示請求してみよう
    1. 担当部署へ軍歴の有無を電話確認(火災などにより消失している場合があります)
    ※厚生労働省は有無の電話確認を行っていないため、申請の手続きに進んでください。
    2. 申請書を入手(1もしくは2の段階で、担当部署に疑問点や注意点をまとめて聞いてしまいましょう)
    3. 申請書の記入(わからない部分は不明と書いてください。用途・目的の欄は「家族史の作成」など、しっかりと記入しましょう)
    4. 必要書類を揃える(ここが一番面倒なので、役所に「軍歴証明書を取得するために調査対象者と申請者の関係が証明できるものが欲しい」と伝えて、指示を仰ぎましょう)
    5. 申請書と必要書類を郵送
    6. 発行手数料の支払い(5の後に料金と支払方法の通知がきます)
    7. 軍歴証明書が送られてくる(早ければ一週間、長い時は三ヶ月ほどかかることもあります)

 

軍歴証明書の発行は、思っているより時間と手間がかかります。
わからないことがあれば、とにかく電話で聞いて書類の不備をなくしてしまいましょう。

また、調査対象者が陸軍軍人・軍属で、本籍地の都道府県担当部署に軍歴が残されていない場合、海外で戦死された方であれば厚生労働省が軍歴を保管している可能性があります。

※一部、軍歴がまったく残されていない方々もいらっしゃいます。

 

 

2. 所属先を調べよう(陸軍?海軍?)

調査対象者や当時を知るご親族が亡くなっている場合、太平洋戦争に従軍していたことはわかっていても所属先情報が手元にないことも多いでしょう。
聞く相手がいない、そんな時の調べ方をご紹介したいと思います。

と、その前に一つ。よく「おじいさんは飛行機に乗っていたそうだから空軍だろう」というように思っておられる方がいらっしゃいます(筆者も子供の頃はそう思っていました!)
旧日本軍には空軍はありませんでした。詳細は割愛させていただきますが、空軍がないということは、たとえパイロットであっても陸軍飛行隊か海軍飛行隊いずれかの所属になります。
そのため、飛行機乗りであったという情報だけではどちらの所属かわからず、所属先を調べる必要があります。
以上を踏まえた上で、調査を進めていきましょう。

 

  • 戸籍謄本を読んでみる
    対象者が戦死している場合、戸籍謄本には死亡年月日と戦没地が記載されています。戦没地を調べることで陸軍か海軍かの見当をつけることができます。
    また、戦死の届け出をした部隊長の名前が記載されているので、その方が陸海軍どちらに所属していたかで対象者の所属がわかります。

 

  • 戦没者名簿を探す
    終戦時の対象者の本籍地が判明している場合、その地方自治体や図書館に戦没者名簿がある可能性があります。
    また、郷土資料の中に戦没者の一覧が掲載されていることもあります。
    図書館のレファレンスなどを利用して、名簿の有無を確認してみましょう。

 

  • 本籍地の護国神社、靖国神社の御祭神を照会する
    これらの神社に問い合わせ、調査対象者が祀られているか・またその情報を照会してみましょう。
    ご親族であれば回答をいただけるかと思います。

 

  • 遺影の軍服を調べてみる
    戦死された方の遺影は軍服姿のものが多いです。軍服を調べることで所属がわかります。
    インターネットや書籍で似たものがないか見てみましょう。
  軍服 (大日本帝国陸軍)
  軍服 (大日本帝国海軍) 

 

  • 墓石を確認する
    戦死された方のお墓には、入営先・戦没地、最終的な階級などが彫ってあることがあります。
    お墓参りの際に今一度よく見てみましょう。

 

  • 遺品を確認する
    手帳や日記があるという方は稀かと思いますが、もし発見した場合は内容を確認してみましょう。
    また、仏壇の引き出しなどに遺品がしまわれていることもあるので、失礼のない範囲内で探してみるのも一つの手段かと思います。
    戦地からの手紙(軍事郵便)があれば、そこから得られる情報は多いので読んでみましょう。軍事郵便の読み方については別途解説いたします。

 

どうしてもわからない場合は、防衛研究所資料閲覧室に相談してみましょう!
■防衛研究所資料閲覧室 03-3260-7102

 

3. 戦地からの手紙(軍事郵便)を読んでみよう

拝啓 その後の農繁は如何致し居るか伺い申します。
俺も元気にやって居ります故、御安心下さい・・・・・

これは筆者の実家にあった、おじいさん(義理)からの絵ハガキに綴られた言葉です。身内贔屓かもしれませんが、遠い戦地から家族を案じ、励ます優しい人柄が窺えます。
もう少し読み進めてみたいところですが、ここでは手紙の内容ではなく、ハガキから得られる差出人の情報について解説していきたいと思います。

ご存知の方も多いかと思いますが、戦地からの手紙は「軍事郵便」と呼ばれ、「内容に不適切な箇所がないか」「万が一、敵の手に渡った際も居場所や部隊の情報が知られることがないか」と検閲されてから内地へと届けられました。
そのため、差出人が何処からこの手紙を出したのか、どの部隊に所属していたのかは一見わからないように書かれています。
ですが、解読方法さえ知っていれば、大体の位置や所属部隊がわかるようになるのです。少しでも差出人様の情報が得られるよう、お手伝いができれば幸いです。

 

【陸軍】

まず、注目していただきたいのは以下の三箇所です(青枠部分)


①所属部隊が派遣された場所(手紙を出した場所)

②所属部隊名

③検閲者の情報

 

  • ①所属部隊が派遣された場所(手紙を出した場所)
    北支派遣となっています。北支とは北支那の略で、現在の中国北部を指しています。つまり、○○派遣の○○が何処の国・地域かを調べることができるのです。
  ■派遣地域の略称一覧
  Web上で探してみたのですが、一覧に相当するものが見つかりませんでした。発見次第、お知らせしたいと思います。
  書かれている「地域名」をインターネットで検索してみてください。

 

  • ②所属部隊名
    雪第三五三二部隊となっています。これは通称号と呼ばれ、部隊の名称を秘匿するために用いられた暗号名の一種です。
    漢字の符号(この場合は雪)を兵団文字符、個別の番号(この場合は三五三二)を通称番号と呼称し、これらを合わせたものが通称号となっています。
    「雪」とは陸軍歩兵第36師団を指しており、「三五三二」は第36師団野戦病院隊を指しています。
    ここまでわかれば、差出人の調査も捗るのではないでしょうか。

 

  • ③検閲者の情報
    この軍事郵便の検閲を行った方の情報です。差出人と同じ部隊名(通称号)が記載されており、また、「陸軍」と所属が明記されています。
  ■兵団文字符一覧・通称番号一覧
  Web上で探してみたのですが、一覧に相当するものが見つかりませんでした。発見次第、お知らせしたいと思います。全軍の一覧は書籍でも見つけるのが困難な状況です。
  書かれている「兵団文字符+軍団」や「兵団文字符+師団」でインターネット検索してみてください。 
  ■アジア歴史資料センターの公開資料

 

【海軍】

海軍では陸軍と編成が異なるため、上で説明した通称号は用いられていませんでした。
また、筆者が海軍の軍事郵便を所有していないため、画像の提供ができないこと、見識不足のため詳細をお伝えできないことをお詫び申し上げます。

海軍では、部隊の所在地と固有名を秘匿するために、全部隊に郵便符号を割り当てていたようです。陸軍で言う通称号の役割を果たしたと思われます。
郵便符号には以下の二種類があり、これを解読・推理することでより詳細な情報が見えてきます。

  • ①海軍部隊区別符号
    例)ウ一九三(ウ193) → 第一通信隊
  ■海軍部隊区別符号の一覧について
  Web上で探してみたのですが、全部隊の一覧に相当するものが見つかりませんでした。発見次第、お知らせしたいと思います。

 

  • ②海軍所在地区符号
    例)ウ二七(ウ27) → 硫黄島
  ■アジア歴史資料センターの公開資料
  昭和19年6月1日 海軍公報 別冊 郵便物取扱に関する例規 
  この中にある、(附録)所在地区別符及部隊区別符表(1)〜(3)を参考にしてみてください。

 

差出人アドレスの例:横須賀郵便局気付 ウ二七 ウ一九三 ○○隊 (上記を元に筆者が作成した架空のアドレスであり、実在・実物の有無は不明です)

 

当ページの記載に誤りがある際は、資料をご提示の上、お知らせいただけますようお願い申し上げます。

 

4. その他の資料の探し方

  • 戦史叢書
    戦史叢書(せんしそうしょ)とは、防衛研修所戦史室 (現在の防衛省防衛研究所戦史部の前身)によって編纂された公刊戦史です。
    陸軍68巻、海軍33巻、共通年表1巻、全102巻と後に出版された史料集2巻で構成されています。すべて読むことは難しいため、調査対象者が参加した戦いの項目を抜粋してみてくだい。
    なお、公刊戦史となりますので、調査対象者個人についての記載はほぼありません。どのような戦いであったのかを知る資料として読んでいただくのが望ましいと思います。
    現在は廃版となっていますが、国立国会図書館、防衛研究所史料閲覧室、一部の専門図書館、大学図書館、都道府県や政令指定都市の中核となる図書館や、靖国神社靖国偕行文庫などで閲覧することができます。
    ※2018年12月よりWeb上で全巻の閲覧が可能となりました。
  ■戦史史料・戦史叢書検索

 

  • 部隊史
    戦後、復員された方々(戦友会など)の手で編纂された各部隊の記録です。公的なものではありませんが、各部隊の詳細が記されている大変貴重な資料です。
    多くの場合、巻末に戦没者名簿があり、体験者の手記の中には戦友や上官の個人名が記載されていることもあります。根気よく読み進めるうちに、調査対象者様のお名前を発見する可能性があります(あくまで可能性です)
    なお、自費出版のため、発行部数は多くありません。国会図書館(閲覧のみ)や一部自治体の図書館などに所蔵されていますので、お近くの図書館のレファレンスで取り寄せが可能か確認し、閲覧申請を行ってください。

 

  • 国立公文書館 アジア歴史資料センター
    国立公文書館、外務省外交史料館、防衛省防衛研究所のデジタル化された資料をWeb上で公開しているサイトです。
    戦史資料の検索方法の解説ページも設けてありますので、ぜひ活用してみてください。
  ■アジア歴史資料センターTOPページ
  ■戦史資料の検索方法解説ページ

 

  • 防衛研究所資料閲覧室
    防衛研究所が保管している資料を訪問して閲覧することができます。また、レファレンスにも応じてくれます。
    遠方の方は郵便にて資料の請求、レファレンスの依頼も可能ですので、問い合わせてみてください。
  ■防衛研究所資料閲覧室

 

  • 靖国神社靖国偕行文庫
    靖国神社靖国偕行(かいこう)文庫で保管している資料を訪問して閲覧することができます。レファレンスも行っています。
  ■靖国神社靖国偕行文庫

 

いかがでしたでしょうか?
調査を始めた当時、筆者には記事にしたような知識はまだなく、周りに相談できる相手もいませんでした。ですが、色々な機関のお世話になるうちにかけられた「ご先祖様も喜んでいると思うよ」という声に励まされ、何とか自分が納得できる形で調査を終えることができました(思えば本当に長い道のりでした・・・)

この経験が、同じ想いを抱えた皆様の手助けとなることを願っております。

 このページについてのお問い合わせ、情報のご提供はこちらまで。

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